2016年10月21日

希釈冷凍機 増幅器 2 「出力同軸線」

冷凍機の内部配線、出力側の設計がだいたい終わりました。

今回はφ63のポートに低雑音増幅器6つを搭載予定です。ローノイズファクトリ社の低雑音増幅器は4Kにて動作し、ノイズ温度は4K以下というすぐれものです。ノイズ温度が4Kとは50Ω換算で52pVrms/sqrt(Hz)となり、とても小さいことが分かりますよね。私たちの観測帯域は8-12GHzです。

下の図が配線です。上部のフランジより下は真空槽となります。フランジはDN63というISOフランジで(初めて使った)、Inficonという会社から一個5千円ぐらいで購入しました。

最上段が常温、1段下がが50K、もう一段下が4Kです。この間の配線は前回選定した2.2mm銀メッキステンレス同軸線を採用しました。50Kのでは低温下で動作が保証されているXMA社製の低温減衰器が取り付けられています。
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次にその下にある黒いのが低雑音増幅器が取り付けられている箱です。赤いコネクタの上部が増幅器、下部が低温アイソレータとなります。低雑音増幅器には、常温から電源を供給する必要がありますが、もともと付属のAWG30では熱流入が大きく、どこかでラグ板を入れてφ0.1mm銅線orコンスタンタン線で配線しなければなりません。また付属の電源ボードもむき出し基板のようですので、適切にケアする必要がありますね。まだまだやることいっぱいです。ちなにみ、低雑音増幅器は80-90万円/台です。

黒い部分から下は4K以下でして、ニオブ超伝導線で配線します。超伝導線は超電導状態では熱伝導が限りなく小さい、また同軸線の損失がかなり小さいという二つの(私たちにが歓迎する)性質を上手く使います。そして最下段にも低温アイソレータを入れます。

低温アイソレータというのは、低温で動作するように調整されたアイソレータで、非相反的な回路です。回路に強磁性体が入っており、静磁場でバイアスされています。常温用のアイソレータを(はるか昔に)低温で測定したところ、強磁性共鳴周波数が高くなることで仕様の周波数で良いアイソレーションが得られませんでした。低温アイソレータはこれを低温下でうまく動くように調整しているんでしょうね。お値段約25-30万/個です。

なぜこんなにアンプの前段にアイソレータをたくさん入れているかというと、高温側(例えば4K)から低温に流入する雑音を心配しています。入力側はトータルで50dB程度の減衰器を入れており、常温からの熱雑音が小さくなるように設計しています。しかし出力側は4Kの増幅器まで限りなく小さい損失で抑えたいために、超伝導線を使いますが同時に高温からの熱励起雑音の流入を許してしまいます。そこで観測帯域周辺の熱励起雑音をカットするために、アイソレータを入れています。実際の実験にはこの2つに加え、もう2つ程度アイソレータまたはサーキュレータを使用し、合計60~80dBのアイソレーションを必要とします。それほど見たい量子の励起電圧は小さいってことですね。

ところでところどころに入れている「曲げ」ですが、熱膨張(主に収縮)によるケーブルのストレスを回避するために入れています。低温により断線すると修理が大変ですからね(全分解する必要あり)。ケーブルの最小曲げ半径などを考慮して曲げの曲率を決めました。一説には曲げることで中心導体が偏心し、良い熱コンタクトが取れるという話ですが、どこまで本当なのか分かりません。できるだけ多く入れたいのですが、超伝導同軸線は固く、引き伸ばし工法によれば1m単位でしか作れません(という話です)。全体の長さを50cm以下にすると1mケーブルから2回線分確保できますので、3本の1m超伝導同軸線を供給するだけで良い、と安上がりです。この観点から曲げを4Kと700mKの間に一か所入れました。

今日はこの同軸線アセンブリの見積もり依頼を出しました。

出力側はまだ完成ではなくて、超伝導線を100mKと700mKの板にクランプ固定し、熱コンタクトがとれるようにします。



jjq303dev at 23:00│Comments(0)冷凍機 

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日々徒然過ごしている研究員。

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